ハリケーンによる高潮マップの作成
新規プロジェクトの作成と標高データの取得
どのような種類の洪水のマップを作成する場合でも、調査領域の陸地の標高を把握する必要があります。 ArcGIS Living Atlas of the World は全世界の標高データを提供しており、これを使用して解析を実行します。 プロジェクトを ArcGIS Pro で作成して標高データを取得します。
- ArcGIS Pro を開きます。
注意:
ArcGIS Pro へのアクセス権限または組織アカウントがない場合は、ソフトウェア アクセスのオプションをご参照ください。
- 開始ページの [新規] で [マップ] をクリックします。
- [新しいプロジェクト] ウィンドウで、[名前] に「StormSurge」と入力して [OK] をクリックします。
- リボン上の [マップ] タブをクリックした後、[照会] グループで [場所検索] ボタンをクリックします。
- [場所検索] ウィンドウで、「New York City」と入力して Enter を押します。
マップにニューヨーク市が表示されます。
デフォルトの地形図ベースマップは、マンハッタンなどニューヨーク市のさまざまなエリアを区別するのに役立ちます。
- [場所検索] ウィンドウを閉じます。
- マウスのホイール ボタンを使用してマンハッタンを拡大表示し、画面移動してサンプル画像に表示されている表示範囲を取得します。
表示範囲にはマンハッタン島だけでなく、南側のブルックリンや東側のクイーンズなど、ニューヨーク市の他の区も表示されています。 次に標高データを追加します。
- リボンの [表示] タブをクリックします。 [ウィンドウ] グループで、[カタログ ウィンドウ] をクリックします。
- [カタログ] ウィンドウで [ポータル] タブをクリックして、[Living Atlas] ボタンをクリックします。
ArcGIS Living Atlas は、マップ、アプリ、データ レイヤーなどを含む地理情報のコレクションです。
- [カタログ] ウィンドウで、検索ボックスに「Terrain owner:esri」と入力して Enter を押します。
検索結果のリストには、[Terrain] という名前のイメージ レイヤーが含まれます。 このイメージ レイヤーでは、全世界の標高データが、拡大と縮小に合わせてさまざまな解像度で提供されています。
- [Terrain] レイヤーを右クリックして、[現在のマップに追加] を選択します。
マップ ビューが縮小され、世界全体をカバーするラスター レイヤーが表示されます。
ラスター レイヤーはグリッドで構成されており、各セルはピクセルと呼ばれ、それぞれに数値があります。 [Terrain] レイヤーの場合、各ピクセルの値はメートル単位の標高を表しています。 値が最も高いピクセル (最も高い山頂など) は白で表示されます。 値が最も低いピクセル (海面下に沈んだ陸地など) はダーク グレーか黒で表示されます。
- リボン上の [マップ] タブの [ナビゲーション] グループで、[前の表示範囲] を 1 回クリックしてマップ ビューをニューヨーク市に戻します。
マップ全体が黒く表示されます。 これは、世界全体と比較するとニューヨークの標高が全体的に低いからです。 Terrain レイヤーの表示を変更することで、ニューヨーク市エリアの標高の差をわかりやすくします。
- [コンテンツ] ウィンドウで、[Terrain] レイヤーが選択されていることを確認します。
- リボン上の [イメージ サービス レイヤー] タブをクリックします。 [レンダリング] グループで [DRA] をクリックします。
DRA は Dynamic Range Adjustment (ダイナミック レンジ調整) を表します。 このモードでは、マップ上の色調は、現在のマップ ビューの値の範囲のみに厳密に基づいています。 しばらくするとビューが更新され、標高値の局所変化を視覚的に確認できるようになります。
- [クイック アクセス ツールバー] で、[保存] をクリックして、プロジェクトを保存します。
このセクションでは、ArcGIS Pro でプロジェクトを作成し、世界全体の標高データを提供する ArcGIS Living Atlas から [Terrain] 画像レイヤーを追加しました。
標高ラスターのエクスポート
次に、対象とする領域のみをカバーするファイルベースのラスターを [Terrain] イメージ レイヤーからエクスポートして、解析を実行できるようにします。
- [コンテンツ] ウィンドウで、[Terrain] を右クリックし、[データ] にポインターを合わせて [ラスターのエクスポート] を選択します。
[ラスターのエクスポート] ウィンドウが表示されます。 ここでは世界全体のラスターではなく、ニューヨーク市のみのラスターをエクスポートします。
- マップの中心が引き続きマンハッタンになっていることを確認します。 [ラスターのエクスポート] ウィンドウの [クリップ ジオメトリ] で [現在の表示範囲] を選択します。
ラスターをクリップするための境界四角形を定義する 4 つの座標が更新されます。
- [セル サイズ] で [X] と [Y] をどちらも「10」に変更します。
セル サイズによって出力ラスターの解像度が決まります。 この場合は、各ピクセルが 10 メートル四方、すなわち 100 平方メートルの地面をカバーします。
- その他すべてをデフォルト設定のままにして、[エクスポート] をクリックします。
ヒント:
出力ラスター データセットがサイズ制限を超えているという警告を受け取った場合は、拡大表示してマップがカバーする領域を小さくするか、セル サイズを増やすことができます。
新しいラスター [Terrain.tif] をマップに追加すると、前の DRA の表示と同様に黒から白の新しい範囲で描画されます。
- [ラスターのエクスポート] ウィンドウを閉じます。
以降は必要ないため、元の全世界の [Terrain] レイヤーを削除します。
- [コンテンツ] ウィンドウで、[Terrain] レイヤーを右クリックして [削除] を選択します。
マップ上の標高値をいくつか確認します。
- マップ上で、[Terrain.tif] レイヤー内の任意の場所をクリックします。
[ポップアップ] ウィンドウが開き、クリックした特定のピクセルの標高値 ([23.12] メートルなど) が表示されます。
- 他のポイントをいくつかクリックし、対象エリア全体で標高がどれほど異なっているかを確認します。
- ポップアップを閉じます。
- Ctrl + S を押して、プロジェクトを保存します。
このセクションでは、対象エリア用の標高データを提供するクリップ済みラスターを保存しました。
3 メートルの高潮のマッピング
標高データを取得したので、次はそれを使用して海抜の低い沿岸地域を見つけ、ニューヨーク市のなかでハリケーンの襲来時に浸水の発生する恐れがある地域を予測します。 まず、ハリケーンによって 3 メートル (9.8 フィート) の高潮が発生するシナリオから始めましょう。 ニューヨーク市の周囲の海面を標高 0 メートルとし、市内で標高が 3 メートルまでのエリアすべてで浸水が発生するとします。
標高が 3 メートル以下のエリアをすべて検索するには、[Terrain.tif] レイヤーに適用された [再分類] ツールを使用します。
- リボンの [解析] タブをクリックします。 [ラスター] グループで、[ラスター関数] ボタンをクリックします。
[ラスター関数] ウィンドウが表示されます。注意:
ラスター関数は、新しいラスターをディスクに書き込むことなく、メモリ内のラスター データセットのピクセルに処理を直接適用する操作です。 中間データセットが作成されないため、これらのプロセスはすばやく適用されます。
- [ラスター関数] ウィンドウで [再分類] ツールを検索して開きます。
[再分類] ツールを使用すると、ラスターのピクセル値の変更または再分類、新しい値を使用した新規ラスター レイヤーの生成を実行できます。
- [再分類 プロパティ] ウィンドウの [パラメーター] タブをクリックし、[ラスター] で [Terrain.tif] を選択します。 [再分類の定義タイプ] は [リスト] のままにします。
[再分類] テーブルで再分類ルールを定義します。 [コンテンツ] ウィンドウの [Terrain.tif] レイヤーの凡例から、このレイヤーで使用できる最低値が約 [-22.9] メートル、最高値が [96.5] メートルであることがわかります。
ヒント:
選択した正確なマップ範囲に基づき、レイヤーの最小値と最大値は若干異なる場合があります。 したがって、以下の 2 つのステップの値を適合させる必要があります。
- [再分類 プロパティ] ウィンドウで [再分類] テーブルをクリックします。 最初のルールで、最初の行の各セルをクリックして、[最小値] に「-23」(または最小値よりも小さい別の値)、[最大値] に「3」、[出力] に「1」と入力します。
このルールでは、値が -23 ~ 3 メートルのすべてのピクセルが新しいラスターで値が 1 になります。 これらが浸水が発生しているエリアです。
- 2 つ目のルールで星をクリックして新しい行を作成します。 次に、新しい行のセルで、[最小値] に「3」、[最大値] に「97」(または最大値よりも大きい別の値) と入力します。 [出力] は [0] のままにし、[NoData] チェックボックスをオンにします。
このルールでは、値が 3 ~ 97 メートルのすべてのピクセルでデータなしになります。 これらが浸水が発生していないエリアで、対象にする必要もないため、データを使って表すこともありません。
- [新しいレイヤーの作成] をクリックします。
グレーでシンボル表示されている [Remap_Terrain.tif] という新しいレイヤーが追加されます。 表示にいくつか変更を加え、レイヤーが見やすいようにします。 まず、標高レイヤーを無効化します。
- [コンテンツ] ウィンドウで、[Terrain.tif] レイヤーのチェックボックスをオフにしてこのレイヤーを無効化します。
新しいレイヤーの名前を変更します。
- [コンテンツ] ウィンドウで、[Remap_Terrain.tif] というレイヤー名をクリックして選択し、もう一度クリックして編集モードにした後、「Storm surge 3 m」と入力して Enter キーを押します。
次に、レイヤーのシンボル表示を変更します。
- レイヤーのカラー ランプを右クリックしてドロップダウン リストを展開し、[名前の表示] チェックボックスをオンにします。 カラー ランプのリストを下にスクロールし、[赤紫 (連続)] ランプを選択します。
このラスターの唯一のピクセル値が 1 であるため、このランプの中央色が 1 つだけ使用され、レイヤーが均一なピンク色に変化します。
- [コンテンツ] ウィンドウで [Storm surge 3 m] レイヤーが選択されていることを確認します。 リボンの [ラスター レイヤー] タブをクリックします。 [効果] グループで、[透過表示] を [40.0%] に設定します。
これで、3 メートルの高潮によって浸水する可能性があるニューヨーク市のエリアがマップに薄いピンクで表示されるようになりました。
- [ラスター レイヤー] タブの [比較] グループで [スワイプ] をクリックします。
- [スワイプ] ツールがオンになった状態のマップで、マップを左右にドラッグして下のベースマップが見えるようにし、浸水エリアと浸水前の水域の境界線を比較します。
拡大と画面移動を行って、マンハッタンのどのエリアと周辺地域が浸水している可能性があるかをより詳しく見ることもできます。
- 探索を終了したら、リボンの [マップ] タブの [ナビゲーション] グループで [マップ操作] ボタンをクリックしてスワイプ モードを終了します。
2012 年 10 月、ハリケーン サンディがジャマイカ、キューバー、バミューダを通過しました。 このハリケーンの北上に伴い、米国の東海岸の大部分には甚大な被害が発生しました。北からの別の高気圧ストームとぶつかる前に、ニューヨークとニュージャージーに上陸したためです。 カリブ海地域、米国、カナダで 230 人以上が犠牲になりました。
次に、先ほど作成した 3 メートルの高潮マップと、ハリケーン サンディによる実際の洪水のマップを比較してみます。
- [マップ] タブの [レイヤー] グループで、[データの追加] をクリックします。
注意:
ArcGIS Enterprise ユーザーの場合は、リボンの [マップ] タブのレイヤー グループで、[パスからのデータの追加] ボタンをクリックします。 [パスからのデータの追加] ウィンドウの [パス] で、次の URL をコピーして貼り付けたら [追加] をクリックします: https://services2.arcgis.com/j80Jz20at6Bi0thr/arcgis/rest/services/Hurricane_Sandy_Inundation_Zone/FeatureServer/0。 手順 15 と 16 はスキップして手順 17 に進めます。
- [データの追加] ウィンドウで、[ポータル] の下の [ArcGIS Online] をクリックします。 検索バーに「Hurricane Sandy Inundation Zone owner: Learn_ArcGIS」と入力して Enter キーを押します。 [Hurricane Sandy Inundation Zone] フィーチャ レイヤーをクリックします。
- [OK] をクリックします。
[Hurricane Sandy Inundation Zone] レイヤーがマップ上に表示されます。 これは、New York City Open Data ポータルが提供しているフィーチャ レイヤーで、2012 年のハリケーン サンディで浸水被害に遭ったニューヨーク市のエリアを表します。
- 必要であれば、[コンテンツ] ウィンドウで [Hurricane Sandy] レイヤーをクリックして選択します。 リボンの [フィーチャ レイヤー] タブをクリックします。 [比較] グループの [スワイプ] をクリックします。 [スワイプ] ツールでマップを探索します。
先ほど作成した 3 メートルの高潮モデルは、実際のハリケーン サンディの高潮とどの程度一致していますか。 このモデルは非常によく似ていますが、ハリケーン サンディは全体的な潮位が 3 メートルをわずかに超えているようです。
ヒント:
[Hurricane Sandy] レイヤーには、範囲の西側 (ニュージャージー州に属する) の洪水データが含まれていません。
- 探索を終了したら、リボンの [マップ] タブの [ナビゲーション] グループで [マップ操作] ボタンをクリックしてスワイプ モードを終了します。
注意:
必要に応じて、[再分類] ツールを再度使用して 3.5 メートルの高潮レイヤーを生成し、結果が Hurricane Sandy レイヤーとより近くなるかどうかを確認できます。
- Ctrl + S を押して、プロジェクトを保存します。
ニューヨークやニュージャージーの住民は、自宅に浸水の危険性があることを予測しておらず、まったく不意を突かれた状態でした。 過去にこのような大きな嵐を経験したことがなかったからです。 しかし、気象要因の独特な組み合わせによってサンディは特に破壊的ではありましたが、高潮をもたらす嵐は過去にこの街に襲来したことがあるのです。
このセクションでは、標高データを使って 3 メートルの高潮に対応する浸水マップを作成し、それを 2012 年のハリケーン サンディによる浸水と比較しました。
9 メートルの高潮のマップ作成
1893 年、ニューヨーク市に襲来したハリケーンは、30 フィート (9 メートル) の高潮を発生させました。 この嵐は非常に強力で、それまでロックアウェイ海岸沿いに存在していたホグ アイランドをほぼ完全に水没させてしまいました。 次に、このような大きな高潮は現在の都市ではどのようになるのか、マッピングしてみます。
- リボンの [画像] タブをクリックします。 [解析] グループで、[ラスター関数] ドロップダウン矢印をクリックしてリストを展開し、[履歴] を選択します。
[履歴] ウィンドウが開き、ワークフローで以前実行したプロセスが表示されます。
- [履歴] ウィンドウで [再分類] をダブルクリックします。
[再分類] ツールが開き、[Storm surge 3 m] レイヤーを作成するために先ほど入力した情報がすべて表示されます。
- [パラメーター] タブの [ラスター] で [Terrain.tif] が選択されていることを確認します。 テーブルの両方のルールで値を 3 から 9 に変更します。
- [新しいレイヤーの作成] をクリックします。
グレーでシンボル表示されている [Remap] という新しいレイヤーが追加されます。 表示にいくつか変更を加え、レイヤーが見やすいようにします。
- [コンテンツ] ウィンドウで [Remap] を 2 回クリックし、名前を「Storm surge 9 m」に変更します。
- 該当するレイヤーのカラー ランプを右クリックし、ドロップダウン リストを展開して [黄オレンジ茶 (連続)] ランプを選択します。
レイヤーの色がオレンジに変わります。
- [コンテンツ] ウィンドウで [Storm surge 9 m] レイヤーが選択されていることを確認します。 リボンの [ラスター レイヤー] タブをクリックします。 [効果] グループで、[透過表示] の値を [40.0%] に変更します。
- [コンテンツ] ウィンドウで [Hurricane Sandy Inundation Zone] レイヤーをオフにします。 [Storm surge 3 m] を [Storm surge 9 m] の上にドラッグします。
これで、9 メートルの高潮によって浸水する可能性があるニューヨーク市のエリアはオレンジで、3 メートルの高潮によって浸水する可能性があるエリアはピンクで、マップに表示されるようになりました。
- [コンテンツ] ウィンドウで [Storm surge 9 m] をクリックして選択します。 [ラスター レイヤー] タブをクリックします。 [比較] グループで [スワイプ] をクリックし、マップを探索します。
ニューヨークでは歴史的にこの高さの高潮を経験しているので、将来的な発生に向けて計画することは不合理ではありません。
- 探索を終了したら、リボンの [マップ] タブをクリックします。 [ナビゲーション] グループで、[マップ操作] ボタンをクリックして、スワイプ モードを終了します。
- Ctrl + S を押して、プロジェクトを保存します。
このチュートリアルでは、ニューヨーク市における大規模な高潮の範囲の可能性を示すマップを作成するワークフローを実施しました。 ArcGIS Living Atlas からマップに [Terrain] レイヤーを追加し、対象範囲をローカル ラスターにエクスポートすることで標高データを取得しました。 [再分類] ラスター関数を使用して、特定の標高を下回るエリアを検索しました。 最後に、新しいレイヤーをシンボル表示して洪水エリアを可視化しました。
Terrain イメージ レイヤーは世界全体をカバーしているので、どの沿岸地域にもこれと同じワークフローを使用できます。 このプロセスを使用して、海面の上昇をモデル化することもできます。 IPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change) は、温室効果ガスの排出量が今後も大幅に増加し続けた場合、世界の平均海面が 2100 年までに 60 ~ 110 センチメートル上昇する可能性があると予測しています。 1.1 メートル以下の標高で浸水するようになった場合、近くの海岸線はどのような風景になるのでしょうか。 暴風の強度、潮位、海面上昇は、地域によってすべて異なることを忘れないようにしてください。
注意:
このチュートリアルのアプローチは、単純な海岸線の場合にはうまく機能しますが、堤防や土手で保護されたエリア、または水がその他の種類の障害物に遭遇するエリアの場合、正確な洪水予測を提供しません。 さらに洗練されたアプローチについては、「沿岸氾濫の影響のモデル化」のチュートリアルをご参照ください。
同様のチュートリアルについては、「画像およびリモート センシングの概要」ページをご参照ください。