時間の経過順に表示される時系列画像は、時間を追った比較を体系的に行えます。大災害の前後の様子や、歴史的景観の再現に加え、数週間、数か月、数年、数十年の間に見られた変化の監視や予測など、時間旅行のような幅広い用途が可能になります。この章では、時間の経過に沿った動的処理について調査します。
変化に満ちた地球に関する理解を深めるため、私たちは情報を時系列で把握し、過去を可視化し、現在を理解し、将来的な傾向を見通せるよう努めています。たとえば、地球科学者たちは時系列の衛星観測を使用し、毎月の降水パターンを監視しています。雪塊氷原の面積や、冬の間に高緯度地域や極域から雪塊が南下し、夏の到来とともに消滅していく様子などもこれに含まれます。また、科学者たちは衛星で観測された時系列データを通じて干ばつを監視し、 気候学者たちは、今後の気候傾向を予測するモデルを適用しています。コンピューティングや GIS が発展する中で、時間ベースの機能が新たに開発され、応用されています。このような流れとともに、画像が持つ時間的な側面の重要性が認識されつつあります。私たちは変化に富む世界に生きているので、GIS がそれを反映するのも当然のことなのです。そこで画像は重要な役割を担っています。
時間的な点を考慮しなければならない用途は数えきれないほどあります。山火事の範囲を視覚的に示すには、空撮作業を何回も実施し、火災が発生している周辺地域をクローズアップした熱画像を収集する必要があります。山火事は急速に変化するため、空撮作業は 1 日に数回行われます。反対に、森林伐採を観測するには、広い範囲を長期間にわたって網羅する画像が必要です。森林伐採は長い年月をかけて行われるからです。
一方、センサーから未加工の情報が大量に取得され、このような難題の対処に役立てられています。継続的な観測を行う衛星プラットフォームは (政府でも民間でも) 爆発的に増加しており、そのどれもが地球の観測データを収集しています。継続的な観測を行うために設計された衛星のいくつかは、一定の期間ごとに同じ地域を撮影します。Landsat、MODIS、GLDAS、Sentinel、SPOT、RapidEye などはその例です。Landsat 8 は、16 日 (回帰日数) おきに地球上のあらゆる場所を再訪します。MODIS は 1 ~ 2 日おきに観測データを収集し、地球を網羅します。このようにして衛星プラットフォームは定期的に観測を行っているのです。
経時的な変化を捉えましょう。
私たちは、時間的な変化が起こっている真っ最中に、その変化を認識します。たとえば秋から冬、昼から夜への移り変わりなどです。しかし、画像は人間の認識を模倣しながらも、時間的、空間的なスケールをさらに広げることができます。時間対応の画像は、個人の時間や空間をも超越するようなことに疑問を呈し、答えを見出す力を与えてくれます。
時間は、直線的に捉えられることもあれば、周期的に捉えられることもあります。直線的な時間の場合、始まりと終わりがはっきりしており、不連続、連続的、または周期的な時間単位で表現できます。連続的な時間を捉えた画像の一例には、動画が挙げられます。周期的な時間とは、何度も連続して起こる出来事を捉えたものです。毎日観測される気象は、周期的な時間の一例です。
画像は、過去を最も効果的かつ印象的に捉える方法の 1 つです。歴史的画像は、変化を捉えるためのベンチマークとして、地球の貴重な資源の管理についてより適切な判断を下すために役立てられています。GIS 技術は古地図や古い写真に地上から、上空から、あるいは宇宙から、新たな命を吹き込みます。
紙の地図をスキャンすると画像に変換できます。スキャンしたものは地理的な座標を付加することができ、他のレイヤーと同様に GIS で利用することができます。古地図は解析に背景情報を与え、変化を捉えるための基準となります。USGS には、世界最大のコレクションがあります。
このような画像は、気球や航空機、最近ではドローンで撮影されており、 地勢を平面的に (鳥瞰図で) 捉えることができます。初の航空写真は、19 世紀後半に撮影されました。
画像を捉える方法として、初めて使われたのが写真です。歴史的写真には、GIS 解析用の背景情報や視点が詰まっています。100 年前に撮影された場所をもう一度撮影して画像を比較すると、どのような変化があったかがわかります。たとえば、USGS Repeat Photography Project がコロラド川沿いで行ったような取り組みです。
数多くの地球観測衛星が、指定地域の上空を毎日通過し、時系列の画像を撮影しています。たとえば、気象衛星は 1 日の天候をほぼリアルタイムに捉えます。一方で、GLDAS をはじめとする衛星の多くは、地球の全地域の上空を日々通過し、地球に関する非常に重要な観測を行っています。
興味深いことに、画像の時系列の結果を計算するには、地球の物理プロセスの多次元コンピューター シミュレーション モデルが使用されており、これによって衛星が通過するまでの間の様子が補間されています。他のモデルでも、歴史的な状況をシミュレーションして過去の出来事を再現したり、将来の状況を予測することができます。
画像を通じて、過去の風景をデジタル的に再構築することができます。1 枚の歴史的画像を基に、ある場所の過去を調査することも、複数の歴史的画像を使用して、時空を経た変化をより細かく見ることもできます。
私は長年にわたり米国地質調査所 (USGS) で勤務していましたが、その間、優秀な地質学者、水文学者、エンジニア、水質専門家、イラストレーター、エディター、地図製作者の仕事を支援し、観察し、多大な敬意を抱いてきました。地図製作者の芸術的才能や精密さや、印刷媒体の時代の到来、解釈的科学、地理的範囲など、私たちのチームが手掛けてきた地図や出版物の内容は幅広い人々に愛されてきました。
米国の環境、科学、文化を研究している多くの組織は、設立から数十年前が経過していますが、中には、米国建国の数年後まで遡るものもあります。136 年の歴史を誇る USGS は、地質、地形、水質、生物的な資源の研究に尽力してきました。私も、光栄なことにその一員として勤務してきました。USGS でも、手作業で行ってきたことが、デジタル探索の時代の到来とともにデジタル製図への期待が高まり、マップの共有も可能になりました。
司書からは、このようなハードコピー印刷を残しておくだけでは不十分なため、これからはカタログ化して保管する必要があると聞かされました。効果的な保管プロセスを通じ、オリジナルの画像を捉えることも可能になりました。これは特に、従来の紙の地図や報告書にとってメリットがあります。その結果、http://pubs.er.usgs.gov では USGS が発行した 130,000 本以上もの科学刊行物にアクセスできるようになり、http://nationalmap.gov/historical/index.html では 175,000 件もの地形図にアクセスできるようになりました。地形図は、ArcGIS Online でも活用できます。研究者や科学者たちがこれらの地図や文書を使用できるようになっただけではありません。幅広いユーザーが、その美しさや重要性を認識し、実感できるようになったということです。
USGS などの機関が制作した古地図は、過去への扉を開くだけでなく、明日への背景情報も提供するのです。この情報を誰がどのように利用するかをすべて予測することは不可能ですが、ArcGIS Online や Living Atlas を通じて古地図のアーカイブにアクセスできるようになったことで、過去をより深く理解し、現在を管理し、将来の計画を立て、共有することが可能になりました。
古地図のコレクションを見る古地図は、GIS に重要な観点を与えてくれます。過去の世界の様子を明確にし、形にしてくれるのです。地図がなければ二度と訪れることができない場所を目にすることを可能にし、 現在と過去、そして未来を比較するための枠組みを提供してくれるのです。古地図の優れた点の 1 つとして挙げられるのは、現在の地図や情報に統合できることです。実際には、新しい種類のレイヤーとして GIS に追加できます。これは、古地図をスキャンしてデジタル化し、地理座標を付加することで行われます。この地図は、実質的に GIS の新しい種類のラスター レイヤーとなり、さまざまな用途での活用が可能になります。
Landsat は、独自の方法で地球を観測します。世界のあらゆる場所の画像を撮影して、森林破壊のパターンから農業の傾向、火山活動から都市のスプロール現象まで、地球に隠された秘密を明らかにします。Landsat プログラムがセンサーで撮影を開始したのは 1970 年代のことで、現在は Landsat 8 ミッションで継続中です。地球のあらゆる部分を数週間に一度撮影するため、経時的な変化を確認し、分析することができます。
USGS は Landsat のデータ プログラムを管理しており、画像を誰でも自由に使用できるようにしています。画像のコレクションは、40 年以上にわたってさまざまな Landsat センサーが撮影してきたシーンで定期的に更新されており、地球の歴史を垣間見ることができる素晴らしい画像リソースになっています。
新しい Landsat シーンは毎日撮影されています。新しいシーンが生成されると、動的に増加している画像モザイクに追加されていきます。この画像モザイクは共有データベースにあり、数百万枚もの既存の Landsat シーンが格納されています。これは、歴史的な比較を行ううえで非常に有用な情報として活用されています。
Landsat プログラムの開始以来、世界中の政府機関が独自のミッションを立ち上げてきました。例として、MODIS、欧州宇宙機関 (ESA) のコペルニクス計画、最近では Sentinel-2 の衛星のペアが挙げられます。こうした取り組みにより、画像の収集と地球観測の共有が継続的に行われています。新しいミッションは定期的に打ち上げられているため、宇宙からの時系列の地球観測も増えています。これはまさに、地球のマクロスコープとも言えるでしょう。
多くの地図はそれ自身で使用されますが、中には大きな地図シリーズ、または地図コレクションの一部となっているものもあります。USGS の地形図シリーズ、洪水地図シリーズ、保険地図シリーズ、過去に実施された特殊ミッションの航空写真、デビッド・ラムゼイ氏のコレクション、ナショナル ジオグラフィック発行の豊富な古地図などは、すべて GIS を有効活用できる地図コレクションの例です。
大量の古地図コレクションを整理し、アクセスできるようにする際に有効な方法は、コレクションの画像モザイク (接合された画像) を生成することです。各地図の特性、つまりその名前、作成日、空間参照などの特徴を属性として記録し、シームレスなモザイク データセットを作成します。モザイクを使用することで、GIS で地図コレクション全体が蘇り、数多くの応用や利用方法が可能になります。
USGS Historical Topographic Map Collection には、USGS が 1882 年の設立以来、発行してきた 175,000 件以上の地形図のすべての縮尺と版が格納されています。
スライダーを使用すると、さまざまな古地図の透過表示を変更することができます。地図を右クリックしてダウンロードし、友達や同僚と共有することも可能です。
Dutch Cadastre (オランダ国立の地図製作機関) は、オランダ全土の地図をさまざまな縮尺で毎年作成してキャッシュに登録し、それをつなぎ合わせて、履歴的な地形図のコレクションとしてまとめました。これはオランダ国民やオランダを愛する人々にとっては、2 つとない貴重な地図なのです。
GIS ユーザーは、最新の状態と、数日前、数時間前の状態を比較することで、事象の結果を理解することに努めます。ほぼリアルタイムで捉えられる画像の一般的な例としては、緊急対応の調整、損害評価の実施、森林や農業の監視、軍事作戦の遂行などが挙げられます。
ここで言う「ほぼリアルタイム」とは、アクティビティや事象が発生する直前から、そのアクティビティや事象が発生してから 2 ~ 3 日が経過したときまでの時間の範囲を指します。多くの場合、このような時間の範囲が、リアルタイムまたはほぼリアルタイムとして表現されます。これは、人々が対応している事象から、(時間的な意味で) ユーザー自身がどれだけ離れているかによって異なります。
緊急対応型の画像に関しては、その事象に影響する状況を観測する頻度を決めることが重要です。たとえばハリケーンの場合は、該当地域の画像を頻繁に撮影することで、ハリケーンの進路や速度の微妙な変化も検知できます。つまり、特定の場所の状況を確認することが、命や財産を守るうえで大きく役に立つのです。GIS の解析は、変化の様子を高頻度でサンプリングすることで、ハリケーン対策を支援しています。タイムリーに決定を下すことで、より大きな効果が見込めるためです。
気象学者が衛星画像を見るとき、彼らはただ現在の天気を見ているわけではありません。今後の天気の移り変わりにも目を向けています。気象学者は、現在の状況を分析できるだけでなく、次に何が起こるかも予測することができます。
地球が急激に変化していることは、疑いの余地もない事実です。21 世紀に生まれた人々は、数世代前に生まれた人たちに比べると、もっと短い期間でさらに大きな変化を体験することでしょう。画像や GIS を駆使することで、どのような影響が考えられるか、その状況を軽減するためにどのような方法を採ることができるかを理解し、共有できるようになります。
地球の将来的な海水位は、今後の意思決定に左右されるため、今はまだ予測できません。しかし、今後 100 年に起こることは、かなりよくわかっています。二酸化炭素の排出が明日ゼロになっても、海水位は少なくとも 3 フィート上昇するでしょう。また、現在のペースで排出量が増えていくと、6 フィート上昇します。これが近隣地域にどのような影響を及ぼすか、エンジニア、市の行政担当者、懸念を示している市民に理解してもらうため、NOAA の Office for Coastal Management は Sea Level Rise Impact Viewer を開発しました。これは、海面が上昇すると、沿岸地域がどのような状態になるかを画像を通じて予測するものです。
このデータ ビューアーは、海岸管理者、科学者、市民に、海面上昇や沿岸洪水の影響に関する予備概念を提供し、理解を促します。このビューアーは、全国的に一貫性のあるデータセットや分析結果を使用するスクリーニングレベルのツールです。複数の縮尺でデータやマップを操作して傾向を評価し、さまざまなシナリオにおける潜在的な対応を明確にできます。スライダーを使用すると、さまざまな場所で 1 フィート、2 フィート、最大 6 フィートまで海面が上昇したときの様子を視覚化できます。
タブを切り替えると、自然色の画像から土地利用の分類や社会経済的な脆弱性を表すレイヤーにマップを切り替えることができます。これで、海面下に沈む建物の視覚的なインパクトだけでなく、重要な背景情報も見ることができます。このアプリケーションは、湿地帯や沼地への影響に重点を置き、海面上昇による土地被覆の変化も予測します。
過去 40 年にわたり、水産養殖業が成長を遂げてきたタイでは、土地利用に大幅な変化が見られました。エビ養殖場を造成するため、広大な土地に注水したことから、国全体、中でも沿岸地域で、デリケートな生態系が影響を受けました。環境保全と持続可能な土地利用を重視する非営利団体の GIS アナリストとして、バンコク南部のサムット ソンクラーム郡の過去の Landsat 画像を探し、環境の時系列の変化の様子を視覚的に再現しましょう。それを寄付者や投資家向けのプレゼンにまとめ、資金調達や沿岸地域の生態系回復に向けたプロモーションを行います。
このレッスンでは、サムット ソンクラーム郡の中でも環境保全を重点的に行う地域を特定するプレゼンテーションを作成します。Living Atlas Landsat アーカイブの中から、調査対象全域について 1970 年代から 10 年ごとに 1 枚の画像を取得します。画像を取得したら、マルチスペクトル データを解析し、植生、土地、水域を強調表示します。次に、ArcGIS Online のタイムアニメーション ツールを構成し、時系列アプリをカスタマイズして観測データを公開します。