画像解析では、洞察や知識を得るための解析マップを作成することで、既存のデータから新たな理解を生み出すことができます。ラスター (セルベース) レイヤーを使用して、農業、計画、水文学、気候、野生動物の生息地など、地球表面上のほぼすべての事物や現象をマッピングおよびモデリングできます。この章でテーマとしているのは、画像データが、そのセルベースのデータ構造により、複数のレイヤーで表現されたさまざまな事象を体系的かつ制御された形で解析することを可能にする、ということです。
ArcGIS は、解析モデル内で画像と他の種類の地理情報との結合を実現する解析プラットフォームを提供します。それはシンプルです。GIS は、情報を地理レイヤーとしてまとめます。一方、地球の画像シーンとセンサー データもレイヤーとしてアクセスできます。ArcGIS には、統計情報を導き出したり、サーフェス上の動きや流れをモデリングしたり、活動に最も適切な場所と最も適切でない場所の検出を支援したりできる、何千もの解析演算子が用意されています。
画像は、多種多様な情報フィード、つまり GIS へ情報を供給する仮想的な消防ホースのようなものを提供します。また、ArcGIS には、情報に関する洞察や理解を深めるための空間解析演算子が数多く用意されています。このような解析ツールを使用すると、データからの統計的シグナルの導出、一連の事象の時系列調査、それらの事象の将来の予想や予測など、ほぼすべての種類の課題に対処することができます。空間解析では、新しい情報レイヤーの識別と作成が必要です。これは、建設に適した場所の検出、業績の解析、潜在的な新しい市場の解析、農業生産の評価や管理、疾病の監視や予測など、あらゆる種類の課題の解決に役立ちます。
私たちが直面しているほぼすべての課題は、ArcGIS によって提供される分析的な洞察から解決に導くことができます。そして、画像は常に、解析作業における重要な情報源となっています。
GIS と画像解析は最近になってようやく一体化し、統合されました。また、クラウドおよびエンタープライズ サーバー コンピューティングの登場により、最近のコンピューティング システムは膨大な量の画像情報を解析できます。モデリングの制限が大幅に緩和されたため、情報をより深く、より適切にモデリングおよび解析できます。
セルベースのデータの性質は、ベクター データでは検討すらできない特定の種類の高度な解析に最適です。ELU (Ecological Land Units) プロジェクトがその一例です。4 つの全地球規模のレイヤー (生気候、地形、岩相、土地被覆) が重ね合わせられ、結合されて、1 つの出力サーフェスが作成されます。このサーフェスは、地表の生態学的および地形学的特徴を使用して地球生物圏の体系的な区分および分類を表現し、各土地単位毎に記述して特徴付けます。「このマップは、GIS 対応の地球規模の生態地形学的データ プロダクトを Web で提供する初めてのマップです。土地管理者、科学者、自然保護活動家、計画者、そして一般人も、地球規模および地域規模の地形解析や計算にこのマップを使用できます。」と USGS の Roger Sayre は語っています。
画像を使用して、土地を特定のカテゴリ (異なるタイプの土地利用や土地被覆など) に分類および配置する作業を自動化できます。その後、その派生レイヤーをベースマップとして使用したり、もっと興味深いことには、その後の解析で使用したりできます。時期が異なる一連の画像を分類することで、アナリストが、自然の力や人間の介入によって場所が変化していく様子を探索することもできます。
この森林変化解析ツールは、選択された対象エリア内で、樹木の被覆損失の合計と進行中の火災の数を評価し、さまざまな土地被覆クラスに応じて結果を表示します。Global Forest Watch 変化解析ツールは、空間と時間の情報を使用して、対象エリア内の森林被覆の変化、現在の土地被覆、および法的分類に関する独自の調査を実施できるようにします。
画像のセグメンテーションとは、各地域が均一になるよう、画像を均質なグループに分割することです。このマップは、ArcGIS のフィーチャ抽出解析を使用して各土地区画をセグメントに分割することで作成された不浸透面を示しています。これは、セグメンテーションの応用例として典型的なものです。
GIS 解析で解決できる一般的な課題は、「あるものを配置するために最適な場所はどこか?」ということです。適合性モデルは、まさにその目的 (つまり、建設または保全 (目的によって異なる) するために最適な場所の検出) に使用されます。取り組む課題は多岐にわたります。たとえば、新しいショッピング センターの建設地、作物の植え付け場所、湿地保全地域、風車の展開場所、建物の屋根の上のソーラー パネル設置場所などです。
たとえば、新しい公園の立地の決定に関連する基準には、1) 1 エーカー以上の空き地、2) 川に近いこと、3) 既存の公園に近すぎない場所、4) 成木のあるエリア、5) 多くの人の家や仕事場に近い場所、などがあります。ArcGIS では、ラスター データと画像を使用して、公園や他の場所の適合性を簡単にモデリングできます。次に、さらにいくつかの例を示します。
可視領域解析では、距離、地形、および土地被覆に基づいて、所定の場所から何が見えるか、または見えないかを解析します。これはたとえば、公園のどのエリアから川が見えるか、町の広場から風車がいくつ見えるかなど、特定のランドマークが見える場所を特定するための作業です。
この可視領域解析では、イギリスのある調査エリアで 4 基の大型タービンを使用した風力発電所が景観にどのような影響を与えるかが明らかになりました。都市部または準都市化エリアに風力発電所を建設した場合の景観への影響は、コミュニティで議論を引き起こす可能性があります。風力発電所の建設前に、どこから風力発電所が見えるかを示すことができると、コミュニティの反応を和らげることができます。
この興味深いストーリー マップは、GIS 可視解析を使用して、アメリカ南北戦争のゲティスバーグの戦いの運命的な話を伝えています。Robert E. Lee 将軍が北軍との戦闘を開始した時点 (赤い目のマークの地点) では、図上の明るいエリアの軍隊しか見えませんでした。つまり、その時点で、彼にはグレーで表示されている部分 (北軍が優勢なエリア) にあるものが何も見えていなかったのです。歴史家たちは、伝記、戦闘地図、および基本的な標高レイヤーを使用して、Lee がなぜそのような勝ち目の乏しい戦いに挑んだのかという謎を解き明かすことができました。
水文学は、地球の水 (特に、陸地に対する水の動き) に関連する科学です。水は重力に対応して動くため、地球の表面の高さを使用して水が動く様子をモデリングできます。
洪水が多い峡谷は、米国西部の半乾燥地帯の行楽客に深刻な脅威をもたらします。サンディエゴの NOAA 気象予報事務局は、想定される鉄砲水危険度を特定し、洪水の多い 2 つの峡谷に高度な鉄砲水マップ サービスを実装しました。このストーリー マップは、アンザボレゴ砂漠州立公園内の最も危険なエリアにについて、市民に啓発するための方法を詳細に説明しています。
集水域解析レイヤーは、None (なし) から Very frequent (非常に頻繁) までの 6 つの階級で洪水の頻度を評価します。マップ上の任意の地点をクリックすると、洪水の頻度の評価値を取得できます。この 30 メートルの解像度のレイヤーは、アラスカ、ハワイ、プエルト リコ、バージン諸島、太平洋のいくつかの島 (グアムやサイパンなど) を含め、米国本土のほとんどをカバーしています。
ラスター データは、シングル バンドの場合もマルチ バンドの場合もあり、ごく少数の一意なピクセル値を持つことも、所定のピクセル深度内の全範囲の値を持つこともあります。ラスター データを 3D のマルチバンド画像として可視化したり、動的な時系列マップとして可視化したりする方法は数多くあります。たとえば、カラーの航空写真を表示すると、多くの場合、RGB (赤、緑、青) レンダラーがデフォルトで適用された、3 バンド ラスター データセットが示されます。
陰影起伏の解析では、太陽の方向 (方位角) と水平線からの高度に基づいて、地表面の照度をラスター サーフェスとして 0 ~ 255 の値で計算します。カリフォルニア州フレズノ西部のパノーチェ ヒルズのこの土壌マップに見られるように、地形をモデリングして重ね合わせて表現することにより、他の情報レイヤーをより効果的に見せることができます。
Coastal and Marine Ecological Classification Standard は、海岸と海およびそれらの生命系に関する情報を整理するための、包括的なフレームワークを提供しています。この 4 次元の時系列マップには、物理学的、生物学的、および化学的な特性が含まれ、海岸と海洋生態系の定義に使用されています。データを 3D 表示することにより、このデータは積み木状のグラフィックとして表現され、アナリストはこれを通じて演習を行うことができます。
Landsat の 1 号機が打ち上げられて以来、画像解析は劇的に進化しました。当初は、画像を解釈できるようにするための画像処理に重点が置かれていましたが、後になって、GIS データベースへの入力に使用するフィーチャを抽出するための画像処理に重点が置かれるようになりました。現在では、必要な技術の多くが、一般的なものとなっています。新たに重要視されているのは、世界をより深く理解できるような方法で画像を処理することにより、起こりそうなことを私たちがうまく予測して管理し、先手を打てるようにすることです。これは、私たちが農業、林業、環境資源管理、都市計画、交通管理で、さらには法執行のような分野でさえも、実現しようとしていることです。
画像解析は、孤立して進化するのではありません。画像解析は、それに関連した、進化しつつあるさまざまなものによる影響を受けます。現在そして将来に向けて、クラウド コンピューティングの並列処理による計算能力が向上しています。また、高解像度化や撮影方法の多様化に伴い画像の枚数や種類が増加しています。そして、画像を撮影するまでもなく大規模な既存の GIS データ コレクションにアクセスできるようになったり、解析のための新しい革新的な方法が登場したりしています。この巨大な嵐は、私たちをどこに連れて行こうとしているのでしょうか。
農業を例に取ってみましょう。米国では、大半の農業従事者が自分の農地と作物を USDA に登録しています。優れた土壌マップがあり、全国の標高モデルを利用できます。NEXRAD では、地上レーダーにより大陸の降雨データを 1 キロメートル未満のセル サイズで 5 分おきに収集しています。作物モデルは、他の温度データや日々の太陽照度データと組み合わされて、各農地の作物がどのように成長するかを予測できます。これにより、衛星、航空機、またはドローンから新しい画像が収集されるたびに、マルチスペクトル画像を使用して、このような作物モデルを検証して調整できます。実際に、ドローンは、高い解像度と収集頻度を実現することで、個別の農業従事者に対して特化したデータを提供しています。解析結果に異常が現れると、農業従事者は水の問題、栄養不足、雑草や害虫の問題を解決するために、行動を起こす必要があることになります。この結果、国家レベルでも、農地レベルの精密農業でも、生産についての理解が深まります。
画像解析は、もはやきれいな絵を作成することに留まりません。リモート センシングの技術を、利用可能な他のすべてのセンサーおよび GIS データと統合し、私たちの環境で日常的に起こり、生活に影響を与える重要なプロセスをモデリングすることができるのです。
カートグラフィやあらゆるスタイルの情報デザインの目的は、データの中から重要な点を浮き彫りにすることです。多くの場合、データを表面化させるときにマップつまり情報表示につながるのは、高度な空間解析です。
地表面に降った雨の多くは、貯蔵スペース (湖、帯水層、土壌水分、雪塊、植生など) に取り込まれます。貯蔵容量を超えた雨は、流出水となって、水系に流れ込みます。都市部では、舗装道路や他の不浸透面によって地表流出水の量が激増し、ごみや都市のがれきを水路に押し流して、汚染や洪水の深刻さが増しています。農業地域では、地表および地下の流出水が塩分や養分 (特に、窒素やリン) を過剰に運ぶことがあります。
測深学は、湖底または海底の水面下の深さの研究です。言い換えると、測深学は水中の地形学に相当します。このマップにより、世界の海と、その海底地形を探索することができます。
2011 年にハリケーン「アイリーン」がノース カロライナ州アウター バンクスを襲った際、高潮と暴風によって、ピー アイランドを通る 2 つの新しい水路が形成されました。本土に戻る主要な輸送ルートは破壊されました。州および地域の交通局によって LIDAR と画像センサーによる空撮が行われ、マルチスペクトル画像データと地形の情報が収集されました。
破壊された道路は、地域住民を地域外と結ぶ唯一の手段でした。道路自体に修理が必要なだけでなく、周辺の浜も新しい道路を保護する緩衝地帯として作り直す必要がありました。上空から画像が送信され解析されるとすぐに (ハリケーンからわずか数日で)、関係機関が画像を利用できるようになり、その画像はインフラの再建にきわめて重要な役割を果たしました。
ノース カロライナ州は、簡単なアプリを導入し、嵐で押し流されたものすべてを復旧させるためにトラック何台分の砂が必要であるかについて職員たちが計算を開始できるようにしました。職員たちは、地表にさまざまなサイズの形状を描くことで、道路と浜をできる限り早く修復するために必要な砂の量を現実的に見積ることができました。
多くの地方自治体は、不浸透面の量を使用して、個々の不動産の雨水料金を計算しています。このノース カロライナ州シャーロットの例では、マルチスペクトル画像から動的な画像処理を使用して不浸透面の地物が抽出され、土地区画ごとの不浸透面の合計面積を計算するために使用されています。この解析計算は、GIS と画像処理の統合で生み出された相乗効果を示す素晴らしい実例です。
ArcGIS Spatial Analyst は、さまざまなラスター空間モデリングおよび解析ツールを追加して ArcGIS Desktop の機能を拡張する ArcMap のエクステンションです。新しい小売店に最適な場所を見つけたり、野生動物保護活動のために最も有望なエリアを決定するなどの複雑な問題の解決に使用されます。このエクステンションは、このブックの対象ではありませんが、本格的なアナリスト向けの重要なツールです。
このコースは、データ解析についてある程度の知識を持ち、空間データ解析の専門機能を使用してより深い理解を得る方法を学習したい方を対象としています。ArcGIS Online (Esri のクラウドベース GIS プラットフォーム) の解析機能全体に自由にアクセスしてください。GIS ソフトウェアの使用経験があると役立ちますが、必須ではありません。
水を通さない地表面 (不浸透面と呼ばれる) は、重大な環境問題を引き起こします。雨水からの流出水は、洪水を招いたり、湖や川に汚染物質を運んだりすることがあります。このような危険があるため、多くの地方自治体は、不浸透面の面積が大きな土地区画に対して料金を制定しています。ケンタッキー州ルイビルの地方自治体も、その 1 つです。ただし、不動産に雨水料金を課すには、各土地区画に含まれる不浸透面の面積を知る必要があります。
ルイビルのある 1 つの地区の不浸透面を計算して、この地方自治体の手助けをします。ArcGIS Pro のタスクを活用して、その地区のマルチスペクトル画像からバンドを抽出し、道路やグレーの屋根など、都市の事物を強調します。その後、その画像を土地利用タイプにセグメント化して分類します。これを、浸透面または不浸透面に再分類できます。分類の精度を評価したら、土地区画ごとの不浸透面の面積を計算し、雨水料金の決定に必要な情報とともにルイビルに提供します。